開講報告

平成21年度ポストグラデュエートコース 3コース

歯科用コーンビームCTは歯科医療を変える

H21年11月8日(日)に、野阪泰弘先生、濱本和彦両先生をお迎えして「歯科用コーンビームCTは歯科医療を変える」という題目で、本年度3回目のポストのコースが開催されました。受講生は大学5回のお一人を除けば、大卒31回~大57回と壮年期から若い世代の先生方が圧倒的に多かった。

午前中は濱本先生による「歯科治療はなぜCTが必要なのか」というテーマで歯科治療におけるCTの有用性を講義され、その後CTのデーターの操作実習が行われました。例えば下顎の第2小臼歯では2根の症例、上顎の第2大臼歯の頬側近心根管では2根と、複雑な形態をした根管があり単純なデンタルレントゲンで確認できないが、CTでははっきりと確認できました。又、単純X線写真では確認できない根尖病巣が存在したり病巣の大きさが、単純X線写真で見るよりも大きい事をCTを使った映像で報告されました。又、歯根破折、歯根のう胞、根尖部の異物や顎骨内異物等について、術前と術後のCTを用いて明確な治療のエビデンスを報告されました。下顎の埋伏智歯の抜歯の際のCTの症例を多く出され、パノラマ写真ではわからなかった、8番の為に下顎の第2大臼歯の遠心の骨だけでなく、歯根部が吸収されているCTの写真を出されました。こういう症例では、第2大臼歯の抜歯も余儀なくされる事も考えられますから、術前に十分なインフォームドコンセントをしておかなければ、あとあとのトラブルも予測され、CTがいかに有用かが理解されました。又、上顎の例では、CTにおける検証では慢性の歯性上顎洞炎は意外に多く頬側では骨がひ薄な為、根尖が骨外に突出しているCTの写真もみせられ、メラニンを除去する為に安易にレーザーを強く照射すると、歯肉の退縮を起す症例がみられる為に注意をする必要があると指摘されました。又、単純X線写真では確認できない歯牙周囲の骨の吸収も多くみられる事をCTを用いた映像で説明されました。濱本先生はまとめとして、歯科治療には十分に検証されていない部分が多く残っており、CTは治療の情報及び技術の向上とKrankeの治療に対する理解を深める事ができ、インフォームドコンセントの重要性が叫ばれる昨今では、Krankeとのコミュニケーションを円滑にできると話されました。

実習では参加者一人一人にCTのデーターの操作の指導が行われました。今迄のデンタルやパノラマ写真ではみられなかった映像がみられるばかりでなく、その大きさを簡単に計測できる点では、画期的なものです。 午後からは野阪先生による講演が行われました。先生は、野阪口腔外科クリニックとして保健所へ届出をされていますが、歯科口腔外科の歯科という2字を削除する為に医師会の了承を得てから開業されたという冒頭のお話から始まり、CTを使ったインプラントにまつわる色々なお話をされました。インプラントは患者、歯科医師、コスタッフを含めて人生を変えるということから、野阪先生が大歯大の口腔外科に残られた20年前には上顎癌で欠損した顎補綴はまだ十分でなく絶望した患者が投身自殺してしまった事がインプラントに対する先生の強烈なモチベーションとなった事を話されました。 以下が先生の講演の内容です。

インプラントの成功の為には骨結合の獲得と維持が必要であり、その為には身体の反応を利用する必要がある。

診断のトラブル

  1. クリアランスがない場合は歯槽頂の骨を約2mm削除して、3ヶ月程経過してからインプラントをし、埋入直後にCTをとって安全を確認する。
  2. 隣在歯に病変がある場合は、病変を残す事なく処理してからインプラントをする。
  3. 欠損部の病変に対しても同様である。
  4. 骨質と骨量 広い範囲内から局所をみる必要があり骨はどんどん変化する。

解剖学的な問題点

  1. 下歯槽神経麻痺が出現する場合がある。あわてて術後CTを撮影するのでは遅い。術前のフィクスチャーの直径や長さを考慮しなければならない。
  2. インプラントの迷入による急性上顎洞炎
  3. オトガイ下動脈の損傷による気道閉塞
  4. 口腔底 下顎大臼歯部では舌側への穿孔

手技的トラブルを避ける為には、ステントを装着しパノラマやCTで確認するとともに模型にピンを植立しイメージトレーニングをし、又、術中は模型を横に置いて埋入し術後はCTをとり、イメージと一致しているかどうか術後評価をする。
抜歯即時埋入については、フラップレスは危険な面があり慎重に行う必要があり、インプラントを埋入すれば骨吸収しないという報告もあるが、エビデンスに欠ける面がある。又、軟組織の不足は手術を困難にすると指摘された。CTによる上顎の扁平上皮癌の発見についても報告された。 次に骨造成のCTによる術後評価について話された。ブロック骨は血流がなくなり壊死する事がある。自家骨と人工骨(β-TCP)を使った症例を報告され、遮断膜は非吸収性がいいとされた。

GBRの3大ポイントとして

  1. 十分な減張切開をする
  2. 縫合を確実にする
  3. 遮断膜を隣在歯の歯根に接触させない

次にサイナスリフトの術式について説明された。
サイナスリフトの失敗はダメッジが大きく最初からosteo integrationがなかったり最初はうまくいった様にみえていても2次感染起こしているcaseについて報告された。安易にやる手術ではなく十分なインフォームドコンセントが必要である。
次にソケットリフトの原理について説明され、ソケットリフトは簡単そうにみえてブラインドの手術である為、実は難しく、慎重にやる必要がある。
次にインプラントにおける患者とのトラブル症例を列挙された。

トラブル時に患者はどうなるか。

  1. 20年の信頼も一日で崩れる
  2. 先生におまかせしますと言ったのにリスクを最初に説明されていたら治療を受けなかったと言う
  3. 結構な費用がかかっており、お金儲けに利用された
  4. 周りの人に不満をぶちまける
  5. 2度と受診したくない
  6. お金の問題ではないと言いながら、高額の賠償を請求する

最近の傾向として、外科、補綴等の知識や技術を学ばなくて安易にインプラントをする傾向があり、うたい文句として、腫れない、早い、安いというキャッチフレーズでインプラントをする為にインプラントのトラブルが急増しており、インプラントの失敗はリカバリーが困難で撤去しないといけないので、トラブルとなると大変でその解決には、誠実な対応があるのみだと指摘されました。
最後にまとめとして、歯科医のためのインプラントではなく、患者の為のインプラントであり、まだまだわからない事がいっぱいあるので、歯科医は謙虚にならねばならないし、生体は嘘をつかないから、生体の反応から学び、CTが語り問いかける真実に耳を傾ける必要があると最近の傾向について警鐘をならされました。
野阪先生は過日大阪で開かれた日本口腔インプラント学会で優秀発表賞を受賞され2010年の9月に北海道で開催される第40回インプラント学会で表彰される予定であります。本年度のコースは第3コースまで終わりましたが、京都から参加されている先生は3回とも皆勤で受講され又、複数回の先生方もおられます。受講される先生方の真摯に勉強される姿を見るにつけ私共ポスト委員会も襟を正して、いいコースを企画していきたいと思いますので、多数の先生方の参加を是非お願いしたいと思います。
野阪先生、濱本先生の診療に取り組む姿勢に感動した一日でありました。 両先生、本当にありがとうございました。

ポスト委員長  藤 野  明