大阪歯科大学漕艇部松籟会の奮闘

学生時代に関西で漕艇を経験した者にとって、瀬田という場所は特別な響きを持っている。早春のまだ肌寒いころに水上に出ると遥か彼方の比叡山から容赦ない比叡降しが吹き付ける。オールを持つ手に寒さで痛みが走る。真夏には容赦ない炎天の下で、関西選手権や全日本大学選手権を目指した大学クルーがしのぎを削る。そのような思い入れの場が瀬田の琵琶湖漕艇場である。今年8月に山本洋一先生(大阪府・大32回卒)から1本の E-mail が入った。彼は大歯大漕艇部のOB会である松 会の副会長で、企画担当だ。メール内容は、10月13日に滋賀県・瀬田の琵琶湖漕艇場で開催される「かいつぶりレガッタ」のマスターズ部門 (45歳以上)に松籟会で出したいとのこと。しかし、バウ・サイド (左側にオールを出す 手)のメンバーが足りないとのことだった。大歯大漕艇部松 会が誇る元大学選手権決勝経験者の漕手メンバーが、故障や所要のため出漕できない。ついては、腰痛持ちの私に登場願いたいとのこと。一度は辞退したが、松本宏士先生(大阪府・大29回卒)からも依頼が来て、仕方なく承諾した。最近は、あまり体を動かしていない私にとって、2年ぶりの出漕である。「かいつぶりレガッタ」には、大歯大として毎年出している。この大会のマスターズ部門には京都大学や名古屋大学、同志社大学、東レ滋賀などのOBがこぞって出漕する。かなり本気度の高いレースである。私自身、2年前にこのレースのマスターズ部門のナックルフォア(手4人と舵手1名)に参加した時に、幸運とクルーメンバーに恵まれて金メダルを頂くことができた経験がある。この依頼が来てからは、再びの金メダルをめざして、少しは体を動かすように心がけた。そのような中、9月30日に自宅石段で雨中に滑って転んで、腰をしたたか打った。目から火が出て、しばらく息ができずに いた。翌日から尻が3個になったかと思えるほどの瘤と青アザとが出来た。座ることもままならない。こんなことで他のクルーメンバーに迷惑をかけられないので出場辞退しようかと悩んだ。まして、大歯大漕艇部部長を拝命している手前、あまり無様な格好を学生に見せられない。なんとか、ボルタレンを服用して出漕することに意を決した。

開催の前週に山本洋一先生から届いたFAXでは、9時に現地集合とのこと。集合時間に到着したのはクルーの中では私のみ。しかし、一般部門(45歳未満)で出漕する松籟会若手OBは準備運動に余念がない。現役の本学学生たちも応援に来てくれていた。我々のクルーの出漕時間は10時40分。9時半に辛島光一先生(大分県・大30回卒)
と松本先生が登場。蹴り出し(レースに向けて艇を漕ぎ出すこと)の予定時間の10時までに菅波茂夫先生(広島県・大27回卒)も到着。その頃に、元部長(元学長)の古跡養之眞先生も応援に駆け付けて下さった。一般部門では出漕した松 会の2クルーが予選で惜敗し、敗者復活戦に回ることになった。この一般部門では、他大学のOB会は大学卒業直後のクルーを出していることもあり、なかなかの好タイムを出していた。そのため、我々の若手OBク
ルーでも今一歩及ばなかった。我々のクルーは松 会Aと言う名で、Stroke辛島先生、3番松本先生、2番管波先生、Bow私の順でポジションを確保し、いよいよ蹴り出しだ。マスターズ部門は、距離は300mのレース。7艇がエントリーし、3艇でのレースを2回行う予定であったが、1艇棄権のため6艇での予選と決勝(午後)の2本を引くとの連絡を受けていた。1レース目は、予選。静水の中コンディションは上々。「合わせて行こう」の合言葉を掛け合いながら、スタート位置に並んだ。我々のクルーの両側には例年見覚えのある強面のクルーがいる。東レ滋賀や名古屋大学のOB達が相手だ。スタートは横一線。当方少々蛇行気味のため艇速上がらず、クルー内か「ボケ!」の声が上がった。私は、ゴール手前から酸欠で目の前は真っ白だった。それでも結果は3位。ひとつめのレースを終えた。一旦お気楽モードへ移行したところで、菅波先生からビール休憩を望む声が出た。「決勝までまだ4時間あるぞ」という誘惑と先輩命令に負けて、クルー全員で缶ビールを開けてしまった。中野通伸先生(大阪府・大36回卒)の作ってくれたおつまみを頂きながら、いわゆる「いい気分」になっていた。ところが、昼前に大会本部から突然の松籟会Aクルーの招集アナウンスがあった。敗者復活戦は中止となったはずであったので、何事かと行ってみる。すると、レースを行うとのこと。「敗者復活戦なのか?」、試合の意味も分からずに、とりあえず合わせて行こうということで、乗艇した。決勝に向けて力を温存し、タイミングを合わせることにだけ集中してゴールまで漕ぎ切った。順位は2位だった。艇から降りて、「次の決勝は全力で行こう」と会話していると、表彰式のコールがあった。「なにごと?? さっきのが決勝やった?うそやろー!!」。他団体のクルーに聞いてみると、認識していたようだ。当方クルーがビールを飲んでいる間にアナウンスがあったそうだ。そんなことで、不完全燃焼で頂いた銀メダルは我が家の階段に置いてある。

大阪歯科大学 艇部部長
大阪歯科大学 艇部松 会
(大31回 四井資隆記)