学術講演会

令和4年度 大阪歯科大学同窓会 学術講演会

概要

「切れ目のない歯科健診で人生100年を」~約24万人のレセプトデータ解析より~

日 時:令和4年10月15日(土)午後4時45分~5時30分

場 所:リーガロイヤルホテル(大阪市北区中之島)

講 師: サンスター株式会社 研究開発統括部 石川未希

 講師の石川美希先生は、約24万人を対象としたレセプトの解析結果を基に2021年に2件の論文を発表されました。この度はこれらの研究結果をご紹介いただきました。

 石川先生は、2016年に発表された”歯数と医科医療費の関係”についての先行研究を参考にされ、複数の健康保険組合より寄せられた20歳から74歳までの歯科レセプト、健診データベースを用いて、口腔状態(歯数・咬合)と医科医療費の関係、そして血糖コントロール・肥満と歯数の関係について研究されました。

 検証にあたり、調査対象を性別、年代別に分類し、さらにA1、A2、A3、B、Cの5段階の咬合支持分類(アイヒナー分類)を用いて、医科医療費との関連を分析されました。分析結果は次のとおりです。

〈1〉口腔状態(歯数・咬合)と医科医療費の関係について

 歯数が多い、あるいは咬合状態が良い人ほど、医科医療費は有意に低く、歯が数本抜けた程度や、咬合支持域がすべて揃ったA分類の中でも差が認められた。また、歯数が同じ程度でも咬合状態が異なる場合、咬合状態が良い方が医科医療費は低くなる。

 口腔状態の実態として、歯の喪失は40歳頃から始まり、男性の方が早く始まる。臼歯のすべての咬合が揃っている人は60代以降で6割程度まで低下し、その減少は40代から既に始まっている。

 このことにより、職域の世代のような若い世代においても、歯数と、臼歯を中心とした咬合を維持することは、口腔の健康のみならず全身の健康においても重要であると強調されました。

〈2〉血糖コントロール・肥満が現在歯数に及ぼす影響について

 20代を除くすべての年代において、HbA1cが高いほど歯数は少ない。血糖コントロールが悪い人は、30代という早期から歯を失っている。また、空腹時血糖(FPG)についても、30代以上で血糖レベルと歯数には負の関連があった。40代から60代における糖尿病予備群(110-125mg/dl)も、正常域群に比べて歯数が少なかった。さらに、高血糖はそれだけで歯数減少のリスクであるが、高血糖と喫煙の条件が重なると歯の喪失リスクはさらに高まる。

 血糖指標やBMIが高いほど歯数は少なくなり、高血糖では30代、肥満では40代という早期から、大臼歯を中心とした保有率の低下が認められた。今や肥満は国民の2~3割に該当するといわれます。肥満が原因で一気に病気になるわけではありませんが、生活をしていく中で、高血糖、高血圧、脂質異常症、動脈硬化、脳卒中、心不全など、まるでドミノ倒しのように連鎖的に病気を発症していきます。このことをメタボリックドミノと称し、肥満は多くの重大な病気の出発点であることを表現しています。

 全身の健康を維持するためには、歯数だけでなく咬合(噛める力)も重要であり、しっかり噛める状態で歯を残すことが大切です。また、肥満や糖尿病をふくむ予備群の人の歯の喪失を予防するためには、生活習慣の改善に加えて早期からの定期的な歯科健診や奥歯を中心としたセルフケアが重要であると解説されました。

 この度、24万人ものレセプトデータを活用した調査により、数値化された詳しい分析結果をわかりやすく学ばせていただきました。ここ数年、‘人生100年時代’と言われますが、平均寿命と健康寿命との差には大きな隔たりがあります。健康上の問題で日常生活が制限されることなく暮らしたいと誰もが願っています。

 ”あしたのhealthは今日のmouthから’”…… 我々歯科医師は、お口は元より患者様の全身の健康を担っています。このことを自負し、患者様のために、生活習慣の改善と、口腔内の健康を保つための定期的な歯科健診、メンテナンスの重要性を働きかけることが必要だとあらためて感じました。患者様とともに健やかな人生100年を目指して日々向き合っていきたいと思います。

学術部 水川健司(大29回)

平成30年度 大阪歯科大学同窓会 学術講演会

地域包括ケアシステムにおける医療、介護、生活支援連携の在り方
 日 時 平成30年4月14日(土)
 場 所 大阪歯科大学 天満橋学舎
 講 師 筒井孝子先生

 平成30年4月14日、第1回常務理事・理事(合同会議)開催に合わせて、本学天満学舎にて「地域包括ケアシステムにおける医療、介護、生活支援連携の在り方」と題した講演会が盛況に開催されました。
 最初に、生駒等会長より開会のご挨拶を頂いた後、筒井孝子先生の講演が始まりました。
 講師の筒井孝子先生は、政府の要職を数多く歴任され、現在は『地域包括ケアシステム、地域医療を支える理論構築及びこの実践への応用に関する研究』を進めておられます。
 講演の主なテーマは、以下のとおりです。
 1. 診療報酬改定の背景~地域間の医療・介護格差
 2. 診療報酬改定①医科:入院医療を中心に
 3. 診療報酬改定②歯科:地域包括ケアシステムを中心に
 4. 医療提供体制と今後の方向性
 講演は、図解を用いながら「持続可能な社会保障のために、つまり少子高齢化社会が進展していく中で、国民皆保険を堅持していくために財政主導ではなく、医療側から過不足のない適切な医療を提言していくことが大事である」という内容から始まり、最後に、①財政の歳出超過の是正のために、社会保障費用の多くを占める医療・介護費用の適正化への圧力は続く。②効率的で効果的な診療が求められているが、地域医療ビジョンや診療報酬改定によって、機能分化が進められる中で医療機関や歯科医院、介護事業所においては、地域内でのポジショニングが重要になる。③サービスマネジメントにおいて、今後最も重要と考えられるのは、患者の治療への参画であると提言されています。
 診療報酬改定の背景と、今後の医療提供体制と方向性が示された大変有意義な講演でした。

平成29年度 大阪歯科大学同窓会 学術部特別講演

スポーツ歯科の行方
-アスリートや国民の健康保持に対する歯科的貢献を考える-
 日 時 平成29年9月10日(日)
 場 所 大阪歯科大学 天満橋学舎
 講 師 太田謙司先生

 平成29年9月10日、本学天満橋学舎にて、上記研修会が開催された。
 猛暑の中にも関わらず、会場あふれんばかりの参加者を得て盛況に行うことが出来た。生野副会長から、本講演会の企画趣旨説明を含めた開会の挨拶があり、講演は始まった。
 近年、多領域連携の中での保健医療が求められるようになってきている。また、同窓会設立100周年を迎える2020年には、東京オリンピック・パラリンピックが開催される。そのような背景の中で、我々歯科医師に求められるところは多大である。
 今回の講師は、大阪府歯科医師会会長の太田謙司先生である。先生は、ご自身がスポーツ デンティストでもあられ、日本歯科医師会スポーツ歯科委員会委員長・スポーツデンティスト協議会会長である。正に日本のスポーツ歯科のけん引役である。お話は、その沿革から始まり永い歴史があり、現在では多くの歯科医師が指導的な立場で活躍していることに触れられた。ご自身が、日々医政に携わっておられることから、政治・行政に対してオリンピック・パラリンピック等の国際的イベントでの歯科的貢献の必要性をアッピールされている旨のご報告もあった。また、生活習慣病と運動療法についても触れられ、ご自身の体験を含めたお話は非常に興味深いものであった。そして、我々も日常対応する可能性の高いマウスガードについては、市販の物との差やドーピング問題に関しても説明があった。ご講演の最終段階では、スポーツ歯学の向かう道として、近年叫ばれているロコモティブシンドローム・サルコぺニア・オーラルフレイル等に対しての歯科的アプローチの重要性についてもお話があり、多領域連携での対応の必要性について強調された。講演終了後の質疑応答でも、活発な意見交換が成され、熱の籠った中で終了を迎えた。
 今回のご講演を期に、スポーツ歯学を単に一つのカテゴリーとして捉えるのではなく、包括的医療ケアーの中での継続的な取り組みが我々に求められていることを痛感させられた。

平成28年度 大阪歯科大学同窓会 学術研修会

チーム医療で取り組む「予知性の高いインプラント療法」
 日 時 平成29年2月 25日(土)
 場 所 大阪歯科大学 創立100周年記念館
 講 師 小宮山彌太郎先生
     山口千緒里先生

 平成29年2月25日に本学100周年記念館にて平成28年度大阪歯科大学同窓会学術研修会が開催された。テーマはインプラント療法である。「またインプラントか!」・「今更インプラントか!」と思われるかもしれない。しかしながら、今回の研修会の目的は、インプラント治療のスキルアップをする為のものではなく、インプラント治療のあるべき姿を見つめ直すこと。加えて、チーム医療で取り組むことの意義を考えることである。近年インプラント療法は、非難の的になりがちな風潮がある。時として同業者の歯科医からまで非難を浴びることすらある。
 そこで、日本における現代インプラント療法の草分けである小宮山彌太郎先生と、先生の臨床をチーム医療スタッフとして支えておられる歯科衛生士の山口千緒里先生にそれぞれの立場から講演をして頂いた。
 小宮山先生からブローネマルク教授により確立されたオッセオインテグレーションインプラントシステムの沿革が紹介された。そして、そのインプラントシステムが持つ独自性から励行すべき臨床術式・注意ポイント等が、ご自身の豊富な症例を題材に紹介された。お話の中には、ここ30年余りで不分明なエビデンスの基に提唱されている誤ったコンセプトや患者優先ではない治療が横行していることを危惧する旨のお話があった。また、デンタルインプラント自身が異種物質の生態介入であることから、施術やケアーに関しては最大限の考慮を要することも強調されていた。
 後段では、山口千緒里先生から歯科衛生士の立場からお話を頂戴した。インプラント治療は、少なからず観血処置を伴うものである。すなはち、手術環境や器具等の消毒・衛生管理は死守すべき項目である。先生は、滅菌技士の有資格者であり、清潔環境の必要性や具備条件等について日常のご自身の業務を供覧し、丁寧に示されていた。また、長期予後の向上の要となる衛生指導・メインテナンスの勘所についても詳細に示されていた。
 ご両人のお話の後に行われたディスカッションの時間では、熱心な意見交換が行われ、厳冬の中にもかかわらず熱もこもった雰囲気で閉会を迎えた。ご高話を頂いた小宮山先生と山口先生、そしてご参加を頂いた先生方やスタッフの方々に感謝を申し上げる次第である。

平成27年度 大阪歯科大学同窓会 学術部特別講演

第1回
2025年を見据えて、次代の歯科医療に求められるもの〜異分野との連携〜
平成27年5月24日(日) 大阪歯科大学 創立100周年記念館

 5月24日(日)大阪歯科大学同窓会特別講演が100周年記念会館で開催されました。

 当日は100名を超える受講者にご参加いただきました。10年後の2025年、必ず訪れる2025年問題に対して、歯科医師がどうやって関わっていくのかを異分野の連携という視点から語っていただきました。

 トヨタ記念病院 口腔外科部長の牧野真也先生は、医科歯科連携からの本当の意味でのチーム医療の実践を、地域包括ケアの観点で解説していただきました。たとえ個人開業であっても連携は可能であり、TOYOTAを母体とする戦略的医療施設でのデータは納得いくものばかりでした。

 資生堂 新規事業開発室 医学博士の池山和幸氏は、リーディングブランドとしての化粧品販売から医療介護の分野に参入し、科学的根拠に基づいた研究実績をあげられ、専門分野だけの発想では到底想像もつかない方法で、介護者のADL指数の向上に貢献できることを教示していただきました。
「一瞬も、一生も美しく」資生堂のコンセプトは人として生きるために必要なエッセンスが詰まっていると感じさせるものでした

 Willmake143 代表の田中健児氏は、北は北海道から南は沖縄まで、幅広く医院経営について、アドバイスをしてきた実績から未来を読み解き、どんな歯科医院が求められているのかを示するものでした。特に「待合室」の可能性についてのお話は目から鱗がでる思いで、明日からでもすぐに実践できることばかりでした。

 今回、みなさんが楽しそうに受講しておられる姿を拝見し、本当に嬉しく思います。
今後も大阪府同窓会青年部で、若手向けの企画を打ち出していきますので、第2回の「三叉神経損傷は治療すべきか?」も是非ご受講ください。

第2回
三叉神経損傷は治療すべきか?
平成27年8月 8日(土) 大阪歯科大学 創立100周年記念館

 例年にないうだるような猛暑の中、今年度の第2回学術部特別講演が創立100周年記念館大講義室が8月8日(日に開催された。

 瀬尾教授の抄録によると、口腔外科手術や局所麻酔などにより三叉神経はしばしば損傷を受ける。これらは口腔顔面領域の感覚喪失や神経障害性疼痛に加え、「しびれ」という異常感覚をも生じさせる。しかしすべてが治療対象となるかという問いには、Noと答える。これは単純なNoではなく、「○○による治療」の必要性を理解して欲しいとのご発言であった。まず、神経損傷から再生に関する機序が解説され、とくにニューロンの成長に関与するBDNF(神経栄養因子)の発現様相が重要であり、その他の因子(NGF、NT3)についても最新データに基づいて説明された。また、神経再生時には神経腫が発生するが、その際の炎症抑制も非常に重要なテーマで、さらに症状の変化を詳細に捉える重要性も提唱された。近年、MRIを応用したニューログラフィによる可視化も可能であり、評価に関する最新の研究に驚愕する次第であった。

 治療に関しては瀬尾教授が熱望しているガイドラインが学会レベルで依然整備されておらず、手術療法をはじめとする術式の確立に腐心されている様子がうかがえた。ただ、患者QOL向上の目的などから、モントリオール宣言の積極的な採択により、全人的な医療に取り組んでおられ、われわれ臨床医も十分見習わなければならないものと思われた。

 全体で3時間という長丁場の講演であったが、基礎的研究から臨床経験に基づいて詳細に解説していただき、非常に有意義な講演会であった。講演終了後はプラザ14での懇親会も開催され、参加された会員からの質疑応答に快くお答えいただく瀬尾教授に深く感謝し、大阪歯科大学同窓会学術部の夏の一大イベントが終了した。